西表島ケイビングツアー(洞窟探検)Adventure-Tour-Umiacchar

沖縄県八重山諸島の西表島で行うケイビングツアー(洞窟/鍾乳洞)探検 ケイビングツアーの魅力を伝える為のブログです。

2016年5月西表島北部新洞調査

2016年5月西表島北部新洞調査


事前準備とトレーニング 

昨年行ったフィールド調査で洞口を発見、数回の調査の後初めて洞穴の全体像を把握するための本格的な調査を行いました。私を含む西表島に住むガイド有志で組織するIOSR(西表アウトフィッターセイフティーリサーチ)メンバーだけでは万が一の事態を想定すると力不足は否めないため日本屈指の洞窟探検家でもあり(社)日本ケイビングガイド協会の会長でもある吉田勝次氏にチームリーダーをお願いする事にしました。

多忙な中快く引き受けてください本当に感謝いたします。

今回は西表島の洞窟では珍しく縦穴アプローチになるためメンバー全員がSRT(シングルロープテクニック)のスキル習得が必須のためリーダー来島前にメンバー全員が仕事終わりにSRT訓練を行い基本を体に叩き込みました。

今回は特別に「ケイビングガイド育成講習」も開催して頂けたので、講習と同時進行で新洞探検の為のスキルも講習していただける又と無いチャンスに始めて講習を受けるスタッフやIOSRメンバーの士気も高まります

 

f:id:Adventure-Tour-Umiacchar:20160527142949j:plain洞口へ向かう探検隊メンバー


人類未踏の洞窟へ  

ジャングルを掻き分けいよいよ洞口へ安全を最大限に配慮した支点を作成しいよいよ入洞、約5Mほど降下してから横移動、新洞であるが故に歩みを進めるその先がどうなているのかさえ分からない恐怖とストレスそして魂が震えるようなドキドキとワクワクの連続です

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メンバーの中には竪穴初体験の隊員もいる.緊張の面持ちで他のメンバーを見守る

 


二次生成物はつらら石や石筍やフローストーンなどごく一般的なものしかなく特別追記するような発見はありませんでしたが長い年月の間に途中で水系が変わり強い酸性の水の影響で溶かされる鍾乳石が多く目につきました

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現場現場での講義も行いながら探検は進みます



主洞と並行して支洞が50Mほど伸びそこから基盤岩を深く侵食した中規模のドームへ、上へ伸びるルートはリーダーだけが確認へ入るが天井の落盤の危険がかなり高いと判断されそれ以上の調査は中止、そしてメインの水系をたどり斜め下へと続きます。

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このポイントが今回の探検で最も手ごわかった難所中の難所、かなり焦りました



このポイントで特に追記すべきはかなり長期間にわたり住処としているコウモリの数、25Mプールほどの面積の床一面位は数センチにも積もったコウモリグアノ、確認できたコウモリは典型的な熱帯系のコウモリのカグラコウモリでした、目測ですが400~500個体はいたような気がします
西表島にだけ生息するイリオモテキクガシラコウモリは私の見る限り確認は出来ませんでした。

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**カグラコウモリについて**

カグラコウモリは典型的な熱帯系のコウモリで、国内ではこの八重山諸島石垣島西表島波照間島など)にしか分布していない。しかし、石垣島においては激減し、波照間島ではほとんど見ることができなくなってしまっていると聞く

八重山諸島はカグラコウモリ科の全種にとっても、突出した分布の北限地らしく。カグラコウモリ科のこの種は、台湾には分布せず、亜種にあたるものが、はるかに離れたマレー半島基部(タイ南部)に生息している。飛翔能力や習性からいって、これだけ遠方への渡りはありえない。つまりカグラコウモリは、この地が大陸と地続きだったことを示す貴重な動物種といえ、生物地理学でいういわゆる遺存種にあたるのである。

西表島内での石灰岩の分布はごくわずかに限られ、他に大洞穴はないとされている、大富第一洞穴は国内唯一、最大規模のコロニーだといえ、熱帯域のものにひけをとらない規模である。

また、カグラコウモリの子育ての様式も大変ユニークである。カグラコウモリが毎夜、決まった採餌基地や採餌園を持ち、待ち伏せ型の狩りを行うことが明らかになった。狩りの獲物は大型の 甲虫や蛾、ゴキブリなどで、体重の3分の1にあたる量を一晩に狩ると言われている。


**世界中で西表島だけに生息するイリオモテキクガシラコウモリ**

一 方、イリオモテキクガシラコウモリは、1980年に新種として報告された小型種で、世界中で唯一、この島にしかいない固有種となっている。もっとも近縁な種は、マレー半島西方海上のアンダマン諸島に分布するアンダマンキクガシラコウモリである。こちらもカグラコウモリ同様、遺存種である。イリオモテキクガ シラコウモリはカグラコウモリとは対照的な密集型のコロニーを形成する。西表島の大富大二洞には毎年、数千頭から1万頭規模の大哺育集団が形成され、集団 加温効果を利用した哺育が行われる。



洞穴にせまる危機   

近年西表島ではケイビング(洞窟探検)を含むエコツアーがブームになり始めています、私を始め多くのツアーショップが洞窟をフィールドに様々なツアーを行っているのですが、以前は見かけたはずのコウモリの姿を見かけなくなっていることは確かである、ただコウモリ最大のコロニーがあるとされている大富第一洞窟や第二洞窟などはコウモリ保護の観念からツアーを行う事業所は私の知る限りこの島にはいない

他の洞穴を含め繁殖子育ての為に使われる洞窟はツアーの場所から外すように皆配慮しているつもりではあります。

今回発見した新洞窟のカグラコウモリのコロニーは状況から見ても長期的に繁殖子育ての為に使われている事が明らかな為、場所を明かさない事と今後の入洞は行わない事をメンバー全員で決定しました。

このブログを読んだ方(島在住の方は特に)の中にはある程度の場所を特定できる方もいるかとは思いますが、ルートも複雑でかなり高いリスクがある事、決してツアーで使えるようなポイントではない事、コウモリにストレスにこれ以上ストレスを与えない為に入洞は控えるようにしていただきたいと思っております。

話を戻します

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半水没のサンプを抜ける


コウモリコロニーのあるドームよりさらに下へと続く水系をたどる為、ありえないほど狭い穴を匍匐前進で進み続けます、常識では抜けようと思えないような穴もリーダーの判断力のおかげで奥へ奥へと進むことが出来ました。

リーダーがまず偵察 メンバーは待機 OKの声がかかるとその先へ進む ルートは上へ下へと複雑で帰り道が覚えられるか不安になる程ですが、一人ではなく信頼できるリーダーと複数のメンバーがいる心強さで不思議と精神状態は落ち着いていました。

 

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他のメンバーも同じく最も恐怖を感じたと言うチムニーのクライムダウン

 


後半には崩落激しいドロドロチムニーで下りサンプに近い半水没の匍匐前進を進みさらにチムニーで上がりとかなりアクレシブなルート、どのルートも
増水時に大量の水が流れた跡があり、今山で局地的な大雨が来たら間違いなく水没し脱出不可能になることは確実な場所ばかりにリーダーの表情も真剣さを増します

ほどなくして「外へ抜けるよ~」とリーダーからの声が待機中のメンバーに届く

空が見えるだけのドリーネの下かと思っていたのですが、なんとブッシュの茂みに隠れるような海岸線の岸壁に出る事が出来ました、そこから海へ

今まで感じた事がないような充実感と達成感、高揚感なこれぞケイビングの醍醐味と言える全てが詰まった時間となりました。

地上の世界のアクティビティーにこれほどの興奮をくれる遊びがあるだろうか、人類未踏の世界を探検する事は、まさに地球最後のアドベンチャーなのだ

その後同じ洞窟を戻り全てを撤収し新洞調査を無事にメンバー全員怪我もなく無事故で終えることができた

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ガチ探検を終え一安心したところ

西表島を含め八重山諸島では、昭和52年度より3ヶ年計画で文化庁の補助により実態調査が行われていましたが、その当時はまだ発見されていなかった(島の人も知らない)新洞窟が島の石灰岩の下に眠っていることでしょう、
亜熱帯ジャングルの洞窟はお世辞にも快適な空間とは言えず不快な湿度と暑さ、場所により劣悪な水質や悪臭もある、誰も好んで入ろうとは思わないかも知れませんが、今後手付かずの洞窟が島の開発の影響で無くなって行く事は確実だろう 無くなる前にせめて調査し記録だけでも残したいと思います

何より人類未踏の世界をこの足で歩きこの目で見てみたいと強く思うわけであります。誰かが光を当てない限り地下世界に広がる時間と水の芸術空間を人間は見ることが出来ないのですから

 

レポート:中川隆行

西表島アドベンチャーツアー海歩人 代表:チーフガイド

 

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